DV彼氏と付き合った話

 

 

元ジャニオタ・現地下ドル(活動休止中)のオタクをしてるわたしが、DV彼氏と出会ってから別れるまでの、5ヶ月弱の全記録です。全編ノンフィクションです。メンヘラとメンヘラは出会っちゃいけないのになんで一緒にいちゃうんだろうね。

 

 

 

 

彼(仮名:Aくん)とはじめて会ったのは確か今年の7月だった。元々はわたしのお客さんで、とてもわたしのことを気に入ってくれていた。Aくんはわたしよりも歳上(20代後半)で医学生、実家は会社を経営、そしてなにより顔がめちゃくちゃ良かった。めちゃくちゃ中川大志に似ている。一目見て分かるイケメン。誰が見てもイケメン。この人なら彼女なんてすぐ出来るだろうに、なんでわたしのことをこんなに気に入ってくれているんだろうと思っていた。

Aくんに「連絡先を教えてほしい」と言われたとき、はじめのうちは断っていたが、結局、顔の良さと金を持っていることに負けてラインを交換した。し、その頃のわたしには以前勤めていた店で連絡先を交換していた男性もいたため、連絡先を交換すること自体に関してはそこまで抵抗はなかった。

ただ、わたしが連絡先を教えるのを拒んでいた際「ストーカーしそうだから連絡先交換したくない(笑)」と彼に言ったのを覚えている。それを受けて、彼がラインでの最初の会話で「ストーカーしないから安心してね、元カノの連絡先も消してるし」と送ってきたのも覚えている。付き合った後にAくんがその話を振ってくることもあったから、それらの会話はお互いにとって鮮明な記憶だった。

まあ、この会話がのちに笑いごとでは済まなくなるのだが。

 

 

連絡先を交換して約1週間後、Aくんとご飯に行くことになった。駅で待ち合わせをした後、イタリアンのディナーコースに連れて行ってくれた。駅からお店までの道中、あまり会話は弾まなかった。この時のことについて、のちにAくんも「(会話が弾まなさすぎて)コース料理で予約したのを間違えたな、早く帰りたいと思ってた」と言っているくらいである。本当に会話が弾まなかった。

店に入ってからは、お互いの身の上話をそこそこに話すところから会話が進んだ。お互いの趣味についての話題になったときに、流石に初っ端から「地下アイドルのオタクしてます!」とは言えなかったので、よくありがちな「ジャニーズが好き、山田涼介(実際の元担)のファンだ」と話した。そしたら向こうも「え!俺もジャニーズ好きなんだ!」と話してきた。どうせ嵐の歌を何曲か知ってるぐらいだろうと思ったら、今でも少クラを毎週見るほどのめちゃくちゃなジャニーズ好きだった。わたしですらもう見ていない。彼は錦戸亮くんが好きであったが、それ以外のジャニーズについても満遍なく詳しかった。お互いがジャニオタと発覚した以降はほとんどジャニーズの話をして過ごした。実際のところ、今はジャニーズは降りてメン地下のオタクをしていることも少しだけ話した。推しが誰とかは言わなかった。

わたしはこの時間がめちゃくちゃ楽しかったし、彼も「男だからジャニーズ好きって今まで打ち明けてこれなくて、ここまで人と沢山ジャニーズトークをしたことなかったから本当に楽しかった」と言っていた。

 

見ての通り、この時点でわたしはAくんに対してとても気を許していた。イケメンとご飯して、気の合う会話もして楽しかったのだと思う。帰り道も、行きの気まずさとは打って変わってとても楽しいものだった。電車に乗るとなったとき、これまで客と出掛けたときには絶対に最寄りや家がバレないようにしていたのだが、浮かれていたわたしはつい最寄りを教えてしまった。すると、なんとAくんと最寄りが1駅違いということが発覚した。お互いの駅まで歩いても10分しか掛からないほど近い駅。

そんな奇跡ある?と思った。

その日はわたしが先に一人で電車を降りたのだが、今度はお互いの最寄りでご飯に行こうと話して解散した。

 

 

はじめてのご飯から約1週間後、約束通りお互いの最寄りでご飯に行った。今度はわたしの好きな焼き鳥屋を紹介した。この日はジャニーズの話に加え、お互いの好きなものについて話した。

少しだけ話が脱線するが、ほとんどのフォロワーが知っての通り、わたしはめちゃくちゃに重い男が好きである。乙女ゲームで言えば、ハッピーエンドよりも所謂メリバのほうが好き。わたし“だけ”を好きになってくれる人がよくて、監禁してくれるもんなら一瞬で好きになって、とにかく重ければ重いほど好きになってしまう、そんな性癖をオタク心がついたから持っていた。

そういった“重い男の人が好き”だという話を、詳しいところまでは伝えずとも話した。Aくんはそれを引く様子もなく、むしろ笑顔で話を聞いてくれていた。彼のほうはわたしの好きなところを何個も話してくれた。この日もとても楽しかった。

 

 

それからまた何日かして、Aくんと会った。ご飯を食べに行った後、彼の家でセックスをした。店の外で会うのはこの日が3回目だったけれど、このとき既にわたしはもう完全にAくんのことを好きになっていた。し、それ以上に彼はわたしのことを好きでいてくれた。そのことはずっと彼が言葉にして伝えていてくれたし、彼の行動の節々からもそのことは分かった。とても嬉しかった。

それからわたしは今までに連絡を取っていた客を全員切った。Aくんと会い始めて以降1人とだけ外で会ったことがあるが、その男とも会うのも連絡するのも辞めた。わたしがプライベートで会う男の人は、この時にAくんだけとなった。

 

 

-

 

 

それから週に3〜4日のペースでAくんと会うようになった。色んなご飯を食べに行ったし、買い物にも行った。何時間わたしが洋服を見ても文句を言わずに着いて来てくれたし、荷物も彼から持ってくれた。むしろわたしの好きなものが沢山みれて楽しいと言ってくれた。水族館に行ってデートらしいデートもした。ただ、そのデートの全部、必ず最後には彼の家に行ってセックスをした。わたしがどんなにそういう気分じゃなくてもヤらなくてはならない理由があった。

 

いつものように彼の家にいたある日、セックスをした後にAくんに「俺のこと好き?」と聞かれた。もちろん好きだったので「好きだよ」と答えた。でも彼に「まりのの好きは俺のほしい好きじゃないよ。」と言われた。どういうことか分からなかった。そして次の瞬間、彼の怒りが爆発した。

「俺は“セックスして好き”っていう気持ちが欲しいんだ。まりのの好きはそうじゃない、一緒にいて楽しいとか安心するとかそういう“好き”だ。俺は別にそういうのは欲しくない。ただセックスが気持ちいい、セックスが楽しい、それだけが欲しいんだ。」

そう怒鳴られた。怖かった。わたしの“好き”の気持ちを否定されて悲しかった。今まで一緒にいた時間すら否定された気がして悲しかった。それでもわたしは彼のことを好きだと思った。一緒にいたいと思った。このときから、彼と会う時間のなかでセックスのタイミングで1番盛り上がるように努めた。

 

この頃からAくんの束縛も始まった。

ラインに入っている男の連絡先は、高校大学の友達問わず全員彼の目の前で消させられた。出掛けるときは、全てレシートや写真を残してほかの男と会っていないということの証拠を残させられた。会話の語尾に「〜だよね」とか「〜だよ」とかを使うなと言われた。語尾に「ね」と「よ」を付けてわたしが話すと、同調を求められているようで嫌になるからだと言っていた。昼寝をして連絡が取れないときは、自分が寝ている姿の動画を撮って後で本当に寝てたと証拠を見せろと言われた。彼の前で、元彼の話はもちろん、ほかの男の話をしてはいけなかった。推しの話ももちろん駄目だった。例外としてジャニーズの話はできたが、わたしが好きだった山田涼介のことは下の名前で呼ぶことは許されなかった。

他にも色々あったのだが、これらを守れなかったときAくんはとても怒った。怒鳴った首を絞めた。この頃はまだ叩いたり殴ったりすることはなかったのだが、服から見えないところを噛んだ。噛まれたときは必ず痣になったが、わたしはその痣がAくんに愛されている証のような気がして嬉しかった。痣がずっと消えなければいいのにと思った。

 

 

-

 

 

そんなことを続けて数週間経ったころ、退勤後にAくんと通話をしていると、次の日に一緒に夜ご飯を食べに出掛けることになった。わたしは1日休みの日だったので、昼過ぎにおっさんずラブを映画館で観てから夜合流すると彼に伝えた。

その当日、わたしは寝坊して起きたのが昼過ぎだった。映画にはどう足掻いても間に合わない。寝ていたが、もちろん自分の寝ている姿の動画は撮っていないので、昼までの“アリバイ”は作れなかった。だから、映画を観たことにして夕方に待ち合わせの場所に向かった

合流してから彼の様子がおかしかった。「映画、おもしろかった?」と聞かれ、「おもしろかったよ」と答えた。わたしは以前から田中圭のことが好きだと話していたので、てっきり田中圭に嫉妬しているのだと思った。しかし、合流して30分もないうちに人気のないところに連れていかれた。そこで、

今日、本当はなにしてたの?

と聞かれた。彼は、夕方に最寄りから電車に乗るわたしの姿を見ていたのだった。

嘘をついていたことを謝り、本当のことをAくんに話した。嘘を付いたのは、寝ていたのに動画を撮っていないからAくんに証明ができなくて不安にさせたくなかったからだとも話した。しかし、彼は信じてくれなかった。ひたすら「ほかの男と会ってたんだろ?」と聞いてきた。いくら否定してもわたしには“アリバイ”がなかったので説得もできなかった。そもそも嘘をついたわたしも悪いのではあるが。

そのあとAくんは落ち着いたが、わたしが泣きじゃくって外でご飯できるような状態ではなかったので、ご飯を買って彼の家で食べた。そしてセックスをした。その後、彼は「わかった、信じるよ」と言ってくれ、わたしは家に帰った。

しかし、そのあと事件は起きた。

 

23時頃、Aくんからの不在着信が入っていた。電話をかけ直してどうした?と聞くと、「ごめん、俺やっぱ無理だわ。」と言われた。どういうことか分からなくて意味を聞くと、俺と会う前に他の男とヤったような女と会えないと言われた。いくらわたしがそれは違うと説明しても止めても駄目だった。納得してくれなかった。それどころか、彼の怒りは増すばかりだった。

「お前が事実を認めない限り絶対に俺はお前を許さない、今日何があったのか本当のことを言え、今日だけじゃなくて前も他の男と会ってただろ、言うまでお前からは絶対電話を切るな、お前が本当のことを言わない限りお前が店で働いてることをお前の両親に言ってやる、俺はお前を絶対に許さないからな」

こうなったらもうどうしようもなかった。わたしがいくら本当のことを言おうが、それは彼の求める“本当”の話ではなかった。だから、Aくんと会い始めてから1度だけ外で他の男と会ったときの話をした。

しかし、それは彼の予想だにしていなかった話らしかった。また、彼の罵倒と怒鳴りが続いた。

冷静に考えると、このときはまだAくんと付き合ってもいないため、わたしが誰と会おうが咎められる権利はないしそもそも束縛される権利すらもないはずだった。でも、わたしの心の中は、彼に嘘を付いたこととAくん以外の男の人と会ってしまっていた罪悪感でいっぱいだった。そして大好きなAくんと会えなくなるのがただただ一番嫌だった。だが、いくらわたしが説明しようと彼の怒りが収まることはなかった。しばらく経ったころ、わたしの父親がわたしの通話の声に目が覚めたらしく、こんな時間まで電話するなと怒ってスマホを取り上げられ、そこでAくんとの通話は終わった。時間は夜中の3時だった。

 

次の日、わたしは仕事を当欠し、朝1番でAくんの家に向かった。謝罪と、これからも会ってほしいということを伝えるためだった。門前払いをされると思っていたが、意外と彼は冷静に優しく家に入れてくれた。家に入って1番に、求められるがままセックスをした。そしてそのあと、昨晩の彼との通話の続きが始まった。

彼の頭の中は、わたしが嘘を付いたことはもちろんだがそれ以前に他の男と会っていたことのほうが嫌だったらしかった。Aくんの怒りが何時間もかけて一通り落ち着いた後、彼は泣いた。

「今までまりのに付き合ってって言ってこなかったけど、こういうことがあるかもしれないと思ったから言うのが怖かった。本当は俺だってずっとまりのと付き合いたかった。でも付き合ってしまったら絶対にまりののことを縛ってしまうし、まりののことが好きすぎするから付き合っても苦しくなるだけだから付き合ってって言えなかった。」

彼はそう言った。わたしも泣きながら「わたしはずっとAくんの彼女になりたかった」と言った。少しの時間が空いた末、彼はわたしに「俺と付き合って」と言った。こうしてわたしはAくんの彼女になった

付き合うとなった直後、彼は「今までもしてたけど、俺の彼女になったからにはめちゃくちゃ束縛するからね!」と笑いながら言った。束縛されることが嬉しくって、わたしも笑顔で応えた。

 

 

-

 

 

それから言葉通り、彼の束縛は加速した。

わたしがコンビニでも繁華街でも、外出するときには必ず、①家を出るとき ②駅/外出先に着いたとき ③家に着いたとき に時計つきで写真を撮るよう求められた。家にいる間も、彼が不安がるので定期的に時計を持って写真を撮るようにしていた。わたしのスマホの位置情報も全て彼は把握していた。それから仕事は辞めさせられた。暇になったわたしは、いつでも彼に呼ばれれば彼の家に行った。彼は毎日わたしに会いたがってくれたので毎日彼の家に行ったし、わたしも彼に会えて嬉しかった。束縛されるのも嫌ではなかったし、彼の不安を埋めるためならなんでも進んでした。

ただ、会話で彼の地雷を踏んだとき、彼を不安にさせてしまったときは、以前からの怒鳴る・首を締める等に加えて叩く・殴るが加わった。わたしは、何かあるたびに叩かれるんじゃないかと不安になり、Aくんに逆らうことが一切できなくなった。どんなに理解できないどんな理不尽なことを言われようと、全て彼の言う通りにした。彼の気を損なわないよう、彼に嫌われないよう、精一杯振る舞った。

また、彼の家に行って彼がまず一番に求めることがセックスなので、彼の家にいる間は絶対下着姿か丸裸であった。1日のうちに、時間をおいて何回も求めてくるので、途中で服を着ようとすればそれは不自然な行動であるし、“好きの表現=セックス”である彼に対してわたしがセックスを拒むことはできないので、彼に殴られるタイミングではいつも裸の状態であった=彼の家から絶対に逃げられない姿であった。殴られても逃げることなどできなかった。

叩かれすぎて涙で過呼吸になったこともあった。そのたびに「泣けば済むと思ってるんだからいいよな。泣きたいのはこっちだわ。泣くな。」と言われた。ただ、彼の怒りが収まったあとは「ごめんね、殴ってごめんね、本当は叩きたいわけじゃないんだよ。でもまりのに傷つけられた分まりのにも傷ついてもらわないといけないって思う、もう一人の自分がいるんだ。こうするの全部まりのが好きだからなんだよ、ごめんね、ごめんね、」と泣きながら謝り、暴力を振るったあとは必ず優しかった。“優しい”Aくんのことがわたしは大好きだった。こうしてAくんの恐怖政治、もといDV彼氏が完成した。

 

 

-

 

 

付き合ってから少し経ってわたしの誕生日があった。Aくんは盛大に祝ってくれた。誕生日前日から回らない高級お寿司に連れて行ってくれて、ポケモンセンターで2人お揃いでポッチャマのぬいぐるみを買った。当日は0時にお祝いメッセージをくれ、お昼にお洒落なカフェに連れて行ってくれたあと、夜はフレンチのコースをご馳走してくれた。その後は近くの大きな公園を手を繋いで散歩してから彼の家に帰った。部屋に入った瞬間には“Happy Birthday”のバルーンとわたしの年齢のバルーンが目に入った。それを見て喜んだ瞬間、ハートが飛び出すかわいいクラッカーを鳴らして「お誕生日おめでとう!」とお祝いしてくれた。彼は「今までバルーンとか買ってお祝いする人のことを、なんでそんなことするんだろうって馬鹿にしてたんだけど俺もやる側になっちゃった!こんなことするの人生で初めて!」と笑っていた。ケーキも用意してくれていた。わたしが好きそうなピンクのかわいいハートのホールケーキだった。大変だったはずなのに朝から引き取りに行ってくれたらしかった。

直筆の手紙もくれた。手紙の中にはいろいろ書いてあったが、「いつも怒ってばかりでごめんね。反省してます。」と書いてあり、最後には「これからも末永くよろしくね。まりののこと、世界で一番大好きだよ」と綴ってあった。うれしくてうれしくて涙が出た。

この日だけは、わたしが何かやらかしても地雷を踏むようなことを言っても、怒らないようAくんが努力してくれてたことも知っていた。今まで生きてきて1番幸せな誕生日だと思った。

 

 

そんな幸せな日の数日後、事態はまた元にもどった。誕生日当日までに彼が我慢していた不満も全てぶちまけられた。

 

以前、一緒に出かけた際にバレンシアガに帽子を見に行ったことがあった。わたしが試着するときに、男性の店員さんに「フェイスカバーをお持ちするのでお待ちください」と言われた。女性の洋服屋だとフェイスカバーの着用は当たり前のことなので、その発言に対してわたしは特に何も思わなかった。しかし彼はそうではなかったらしく、お店を出たあと「あの店員、まりのにフェイスカバー付けてって、ちょっと感じ悪かったよね」と言ってきた。それに対してわたしは特に何も考えることなく「まあ仕方ないよね(笑)」と流していた。彼はそのことも気に食わなかったらしかった。

「なんで俺が言ったことよりもあの男の店員の言ったことに味方するの?俺よりもあの男のほうがいいってこと?そうじゃないだろ、俺の言うことには全部賛同しろ」

この日からわたしは彼の絶対的支持者になった。

 

わたしの(女)友達の中で、唯一Aくんに対して名前を教え、話をしていた子がいた。幼稚園から高校まで一緒だった幼馴染である(仮名:Bちゃん)。Aくんの中ではBちゃんの印象が良かったらしく、彼のほうからBちゃんの話題を振ってくることも度々あった。そんなある日、Bちゃんとご飯に行く予定ができ、そのことをAくんに伝えた。Aくんは了承してくれた。ただ、夜に会う予定だったので、その直前まではAくんの家にいるという条件付きだった。わたしはもちろんそれを呑んだ。しかし数時間後、Aくんは「やっぱりBちゃんと会うな」と言ってきた。

「俺以外の人間と会う時間をどうして作ろうとするの?俺以外の誰とも会うな。誰とも連絡を取るな。お前の時間は俺にだけ割け。Bちゃんと会うなら俺はお前と別れる。」

こうして、男のみならず、ライン上にいる女友達すらも全員ブロックして削除された。

この日からわたしがラインで連絡を取れるのは父母妹と彼だけになった。

そしてこの日、実際はどうであれ彼に「別れる」という言葉を突き付けられたことがショックで、わたしは左手首を切った

もちろん次の日もAくんと会ったし、昨日の今日で腕の傷を隠しきれることもできなかったので、手首を切ったことはすぐにAくんにバレた。「自分の身体を傷つけるようなことはもうこの先絶対しちゃだめだよ」と言ったあと、「でもまりのが俺のために手首切ったの本当は嬉しかった」と言った。 そう言われてわたしも嬉しかった。

 

 

-

 

 

そしてこの頃、わたしの母親はわたしの顔に痣があることに気付き、わたしがAくんに叩かれていることを知った。母親はわたしにもう彼と会わないよう言ってきた。当たり前である。その日わたしはスマホを取り上げられ、彼と連絡を取ることも会うことも制限された。

急にわたしと連絡が取れなくなったAくんは、わたしの身に何か起こったか心配するのではなく、今まで出来ていたライン・電話の束縛ができなくなったことで、わたしが浮気していないかどうかのほうが心配だったらしかった。後日聞いた話だが、その日Aくんはわたしが家から出てどこかへ行かないか確認するため、朝10時から5時間ずっと、わたしの家の前で待ち伏せしていたらしかった。ちなみにその日、わたしは1回も外に出なかったため彼の“努力”は無駄だった。

その日の夜、わたしは母親に「叩かれたの1回だけでそれ以降は無いから(嘘)、会うのを許してほしい、好きだから会いたいの」と泣きながら必死にせがんだ。母親は「次DVがあったらもう会わせないから」という条件で会うことを許してくれた。もちろんその後もわたしはAくんに何度も叩かれたが、わたしは母親に嘘をついてまで会い続けた。生きていてAくんに会えなくなることが何よりも嫌だった

 

 

そんなある日、Aくんから「もし俺のことが好きで会いたいと思うなら今すぐ家に来て」と言われた。その日はわたしがとある試験を受ける日の前日だった。もちろん彼はそのことを知っていた。知ったうえでのラインだった。

「会いたいって口で言うのは簡単。思うか思わないかじゃない。好きなら行動で示せ。」

その日は祝日で親が家にいた。当たり前だが試験前日に出掛けるような人間は馬鹿しかいない。それでも、いまAくんの家に行かなかったら彼は怒り、次に会ったときに怒鳴られ暴力を振るわれるのは分かりきっていたため、わたしは彼の家に行かざるをえなかった。“言葉じゃなくて行動で示せ”は彼の怒ったときの口癖だった。わたしが「今からAくんのところに出掛けてくる」と言ったら、当たり前だが親は「なんで試験前日の今日に今から行く必要があるの?」と言った。「1時間で帰ってくるから、お願い、行かせて」と言っても「本当にその時間で帰ってくるか分かんないから、会いたいんならうち来ていいからAくん呼んでうちで会いな」と言われた。

でもそうじゃない。Aくんをうちに呼ぶくらいならそもそも会う必要なんてないのだ。わたしがAくんのことを好きだという証明をしなくてはいけないのだ。わたしがAくんの家に行かなければいけないのだ。

わたしは、わたしの部屋から親がいなくなったタイミングを見計らって家から抜け出した。急いで自転車を取ってマンションから出ようとした。そのタイミングで親に捕まった。それでもわたしは泣きじゃくって彼の家に行かせてと言った。

あまりに狂気的なわたしの行動に、親はわたしとAくんのラインを見せてと言ってきた。見せるしかなかった。その日だけではない、数多く送られてきていた脅迫めいたラインに親は激怒した。当たり前だった。その後電話でAくんはわたしの親に呼び出され、これまで暴力を振るったこと含め数時間にわたる話し合いが始まった。話の収束は「これから先、まりのに手を上げたら別れる」というとこで落ち着いた。それでも、“暴力を振るうことのできないわたし”はAくんにとって価値のない女だと思われそうで、Aくんとの二人きりの帰り道、「もしわたしが何かAくんの気に触ることをしてしまったときには叩いていいからね」とAくんに言った。

DVはまた、二人だけの秘密になった。

 

 

-

 

 

それからまた、わたしが彼にとって気に食わない言動をしてしまったときには怒鳴られ叩かれた。

 

あるとき、Aくんが「まりのが作ったオムレツが食べたい!」と数日間ずっと言っていたので、彼の家に行く途中、スーパーで材料を買ってそして彼にオムレツを作った。オムレツはわたしの得意料理でもあったので、Aくんは「本当に美味しい!」と言って完食してくれた。わたしは嬉しかった。そのあといつものようにセックスをしたが、その後から彼の様子がおかしかった。理由を聞いたところ、また彼の怒りは爆発した。

「やっぱりまりのの“好き”は俺の欲しい好きじゃない、俺はセックスしたいって思う好きが欲しいのにお前はそうじゃない。ヤってるときよりも料理してるときのほうが楽しそうだった。料理なんて俺は別に作ってほしくない。料理を作って俺のことを落とそうとしたことにも腹が立つ。セックスが一番、ただそれだけでいい。」

そう言われてもうどうしたらいいか分からなかった。オムレツを作ってほしいって言ったのはAくんなのに。

わたしは号泣した。オムレツを作った理由も話した。あなたがわたしの作ったオムレツを食べたいとずっと言っていたから。それを聞いて正気に戻ったAくんはわたしに何度も謝った。「ごめんね、ごめんね。本当に美味しかったんだよ。まりのが食べなかった分も俺が食べるから残しておいてね。作ってくれて嬉しかったのも本当なんだよ、酷いこと言ってごめんね。」わたしはAくんがトイレに行っている間、自分が残したオムレツをゴミ箱に捨てた。

それからAくんは、いつか俺が怒ったときに逆上してまりののことを刺してしまわないように、と包丁を捨てた。わたしがAくんのために料理をすることも、彼がわたしを刺し殺すリスクも、この日になくなった。

 

 

-

 

 

この頃、わたしの推しが10/31のイベントに出演することが決まった。人前に立つのは4ヶ月ぶりのことだった。もちろんわたしは行くという選択肢しかなかったため、すぐに飛行機を取りその日が来るのを心待ちにしていた。

問題は、どうAくんを説得するかだった。本当のことを説明しても行くのを許してくれるはずなどなかった。だから、友達に会いに行くと説明し、行かせてほしいと頼んだが、「まりのがいなかったら寂しい、お願い行かないで…」と泣いたので推しのイベントには行かないことにした。わたしにとって、推しよりもAくんを優先すると決めた、大きな決断だった

 

 

そんなことを続けていたある日の朝、彼は突然わたしの家にやってきた。もちろんわたしを何処にも行かせない束縛のためだった。

当たり前のようにわたしのラインを確認したあと、今度は「ツイッターも全部やめてほしい、だめ…?」と言われた。彼と会い続けるためには、わたしはそれを受け入れるしかなかった。ツイッターのアカウントは消しても1ヶ月以内ならまた復活できることを彼は知っていたため、消す前にフォロワーを全員ブロックしろと言われた。その通りにした。

また、「男(推し)の痕跡があるもの全部消してほしい」と言われた。ツイッターとインスタに載せていた写真を、画像欄から全部消した。インスタのアーカイブも全て消した。iPhoneのカメラフォルダも彼の前で全て消した。Aくんに「全部消したよ」と伝えたら、彼は「確認する」と言ってわたしのiPhoneを隅から隅まで確認した。すると「え!!!!消してないじゃん!!!!」と言われた。何を消していないのかわたしは全く分からなかった。写真は全て消したはずだ。

何のことかを聞くとインスタのIDだった。

わたしは、推しの名前と大好きなマイメロディを掛け合わせて、インスタのIDを◯◯melodyにしていた。それを変更することなくそのままにしていたのが彼は気に食わなかったらしかったが、わたしはそれを変更するところまで気が回っていなかった。「怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い」と何度も連呼され、「俺は痕跡を全部消せと言ったんだ、それなのにこれを残すということはお前は男の痕跡を残したかったってことだろ」と言われ、続けて「俺が誕生日にあげた手紙と時計を持ってこい」と言われた。その通りにすると、彼はわたしの目の前で、時計を引きちぎり投げ捨て、手紙を破り捨てた。

そして「俺だって本当はこんなことはしたくない。でもしなきゃいけないんだ。俺が傷ついた分、俺はまりのがしてほしくないことをしなきゃいけない。」と言った。その日1日彼の機嫌が治ることはなかった。

 

また、その翌日に、わたしは前にもあった試験の2次試験を控えていた。彼はわたしがその試験の後に他の男と会わないか疑心暗鬼になっていたので、試験会場に着いたとき・休憩時間・試験会場を出るときに「俺に電話しろ」と言ってきた。もちろんそうすると伝えた。わたしが家を出るときに関してはまた後で伝えると言われたが、結局わたしがどうするべきかについて伝えられることはなかった

 

 

次の日の朝(10/29)、連絡が来なかったわたしは結局どうすればいいか分からなかったので、とりあえず家を出るときに「今から家出る!また会場着いたら連絡する」とラインした。すると、彼から「でんわ」とだけ返ってきたので、それからすぐに彼に電話したが、繋がって一番に「俺は電話しろって昨日言っただろなんで電話しなかったんだ!!!!!!」と怒鳴られた。

連絡をしてこなかったのは彼のほうなのに、なぜわたしが怒られているのか分からなかったがとにかく怖かった。すぐにごめんと謝ったが「絶対許さんからな、お前今日帰ってきたら覚えてろよ、包丁がないならハサミでギッタギタに刺してやる、絶対許さんからな」と彼は怒鳴った。怒鳴りながら、後ろで物を壁に向かって投げつけ、ゴミ箱を蹴り倒している音が聞こえた。今までで一番怒っているのが電話越しでも分かった。わたしの頭の中は試験どころではなくなった。

わたしが電車に乗り電話が終わってからも、試験会場においてわたしがどう行動するべきかの色々な命令が彼から送られてきた。

 

そんななか、昼休憩の時間にスマホを確認すると、Aくんからはもちろん、加えて大学の部活の男の先輩から「2月に福岡に行くんだけどまりのちゃん会えない?」とラインが来ていた。特にお世話になっていた先輩だったため無視するわけにもいかず、「会いたいんですけどちょっと現状無理かもしれないです、ちょっと今いろいろあって連絡がとれないので、とりあえずまた今度連絡するのでQRコードを送ってほしいです」と返した。QRコードさえあれば、わたしがブロックしてもまたこちらから連絡を取ることができるので、一度先輩のことをブロックして削除してから、後日、束縛する彼氏がいるから会えないだろうということをゆっくり説明するつもりだった。QRを送ってもらったのち、既読をつけてからトーク画面を非表示にした。

 

試験が全て終わったあとは、人気のない階のトイレに行くよう指示されていた。その通りにしたら、まず下着を脱いで自分の性器をビデオカメラで映すよう言われた。わたしが試験会場で他の男を見てときめいて濡れていないかを確認するためだそうだった。言われた通りにした。その後は、ビデオ通話を繋いだまま会場を出て、電車に乗り、彼の家に来るよう言われた。

家に着いてインターホンを押し、ドアが開いた瞬間、わたしはAくんに腕を掴まれ引っ張られ玄関に投げ倒された。そして馬乗りになられ、何度も何度も何度も殴られた。しばらくそうされた後、ベッドまで腕を引かれ、服を脱がされ、何度も首を締められ叩かれながらセックスをした。抵抗なんて出来なかった。わたしにできることは「ごめんなさい」と謝ることだけだった。事後も彼の怒りが収まることはなかった。電車に乗ったときにわざと男の横に行っただろ、と言われ、床に頭を叩きつけられ、また何度も何度も殴られた。もちろんわたしは電車でそんなことをしたつもりは一切なかった。顔も全身も痛かったし、口の中も唇も切れて血が出ているのが自分でも分かった。「お前なんか生きてる価値がないんだ、『生きててごめんなさい』って言え」と言われた。わたしは何度も何度も「生きててごめんなさい」と謝った。殴られながらそのまま死にたいと思った。

 

しばらく経って、どうして朝電話をしなかったのか、と聞かれたときに「会場に着いて以降の指示はされてたけど、『家を出るときについてはまたあとで言う』って言われてから結局何も言われなかったから…」と伝えたら、Aくんは少し考えたのちに「確かにそう言った…」と言って自分の勘違いに気付いた。

「俺ほんとに勘違いしてた、確かに俺は家を出るときのこと何も言ってない、ごめん、本当にごめん、そうならそうって言ってほしかった、ごめん、ごめん…」とまた泣きながら謝った。そして「まりのが好きじゃなかったらこんなことしないから、ごめん、好きだからなんだよ、ごめん、まりのがいないと寂しい、許して、ごめん」と謝って抱き締めてくれた。殴られすぎてわたしの思考回路はもうよく分からない状態になっていたが、Aくんに「俺のこと好き?」と聞かれたら「好きだよ」と答えた。

 

 

-

 

 

次の日(10/30)、前日に何事もなかったかのように彼の家で一緒に過ごしていたとき、スマホを確認させてと言われた。いつものようにスマホを見せると、なんとそのとき、前日の昼に連絡を取っていた先輩から「QR読み込めた?」という通知が来ていた。やばい、と思った。もちろんAくんはそれを見て再度激怒した。「なんで俺以外の男と連絡を取っているんだ」と。いくら誤魔化そうとしてもできなかった。またこのまま激昂が続くのかと思っていたが、少し経つとAくんは冷静な口調で淡々と話し出した。

「分かった、ごめん、まりのは本当は俺以外の男と連絡取りたかったんよね、『Aくん以外の誰とも連絡取らない』って言ったのはあれは本心じゃなかったんよね、俺が分かってなかった、ごめんごめん、他の男と連絡取りたいっていうのが本心なんよね?」

そんなわけなかった。Aくん以外の人と連絡を取りたいわけなんてなかった。こんなにもAくん以外の何もかもを切り捨てているのに。「そんなの本心じゃない、Aくんとしか連絡取りたくない。」と言ったが、彼は納得しなかった。

「いや違う、まりのは他の男と連絡取りたかったんよ、それが本心だったんよ、ね、そうだよね、そう言って?」

こうなったらもう駄目だった。わたしの本心ではなく彼の求める“本心”を述べなければだめだった。「本当は連絡取りたかった」と、わたしは言った。

彼は納得し、「気付いてあげられなくてごめんね、時間だから今日はもう帰りな、また明日ね」と言った。顔は笑っていたが目は笑っていなかった。このときに、あっもう駄目だと思った。わたしはAくんに見限られたのだと思った。

 

 

家に帰ってから、Aくんに見放されたと思ってつらくて沢山泣いた。でも、泣きながらこの数日のことを思い返すうちに、なんでわたしはこの男のためにこんな思いをしなきゃいけないんだろうと思うようになってきた。たくさん怒鳴られて、叩かれて、自分の意見すら言うことができなくて、それなのになんで我慢して会ってるんだろうと思った。怒りが沸いた。突然訪れた限界だった。そしてわたしは家で暴れた。泣きながら物を投げ、箸を折り、机の上にあった物を全て投げ落とした。

そんなわたしをもちろん親は心配した。わたしはもうAくんと会わないと決め、彼にもラインでそう伝え、そしてブロックした。わたしと連絡が取れなくなったらAくんは絶対に家に来ることが分かっていたため、親に「インターホンが鳴っても絶対に出ないで」と念押しした。そしてわたしは、行くのを諦めていた推しのハロウィンイベントに行くことを決めた。

 

 

-

 

 

次の日(10/31)、朝の便でわたしは東京へと向かった。推しのイベントは夕方からだったので、着いてからすぐオタクの友達と合流して時間をつぶした。顔にある痣や切れた唇を見せて、Aくんの話を友達にした。皆がもう「その男とは会わないほうがいいよ」と言った。

イベントの開場時間になり、整理番号順に入場が始まった。会場は新宿のライブハウスだった。一緒にいた友達はわたしよりも整番が早かったので先に入場し、わたしは一人で自分の番号が呼ばれるのを待っていた。

そしてここで事件が起こった。

なんとAくんがわたしの目の前に現れたのだ。

何が起きているのかわたしには分からなかった。「来て」とだけ言われ、腕を引っ張られて会場から連れ去られた。頭が真っ白で抵抗することもできなかった。すこし歩いて近くのビルの影に連れて行かれた。わたしは泣きながら「なんで…なんでいるの……」と聞いた。Aくんは「自分の好きな女が他の男に会いに行くのを黙って見過ごせるわけないじゃん」と言った。彼はわたしのスマホを全部見ていたので、カレンダーアプリの予定を見てこの日に現場があることを知っていたのだ。

「ラインが来てなんで、って思った。ここで俺が行動しなかったらもうまりのとは全部終わりになっちゃうって思った。最初、家に行ったけど誰もいない様子だったから急いで空港に行って飛行機を取った。東京に着いてからもギリギリで、タクシー乗って飛ばしてもらって来た。間に合ってよかった」と彼は言った。

わたしは「なんで来たの、もうわたしはAくんとずっと会わないつもりでラインしたのに、なんで、なんで、もうだめなの、わたしとAくんは考え方がぜんぶ違うと思うの、一緒に居て辛かった、もう駄目なの、離して、お願い、行かせて」と泣きながら叫んだ。

Aくんは「行かせない、絶対行かせない。行かないで、俺のそばにいて、お願い」と言ってわたしのことを抱き締めた。

結果として、わたしは彼の腕を振りほどくことができなかった。東京まで追い掛けてくるほどわたしのことを好きなのに、ここまで彼に求められてるのに、と思い、彼を拒むことができなかった。新宿のド真ん中で場所が場所でもあったので、とりあえず移動しようと言われ、電車に乗って池袋に向かった。ぼうっとした頭の中で、わたしは推しに会えなかったなーということと、今まで謎だった歌舞伎町の屋外で喧嘩するホス狂の気持ちが分かった気がするなー、などと考えていた。

池袋に着いて、まずシネマサンシャインがある建物でイタリアンを食べた。食欲はほとんどなかったが、まるで今日という日に何事もなかったかのように、ここが東京ではないかように、普段通りのテンションでAくんと食事をしていた。思い返せば奇妙だったなと思う。

「もしわたしが、Aくんが会場に着いたときに既に入場してたらどうするつもりだったの?」とも聞いた。すると彼は、まるでそうするのが当たり前だったかのように、ごく普通に、「いや俺もチケット買ったから。中入ってまりののこと探すつもりだった。見つけられなかったらそれまでだったけど」と言った。

え?!?わざわざライポケ登録してチケまで買ったん!!?!?怖!!! と思ったが、一周回ってわたしは爆笑した。

 

その後はちょっとお洒落なラブホに泊まり、そこからはどうしてわたしがAくんと会いたくないと思ったかの話し合いが始まった。怒鳴られること、暴力を振るわれるのが辛かったと話した。昨日の最後、Aくんに見限られたような態度を取られたのもしんどかったと話した。物事に対する根本的な考え方が違うから、一緒にいてもお互いこの先辛くなるだけだと思ったと伝えた。

Aくんはわたしの話を聞いて、まず「今まで傷つけてごめん」と謝った。そのうえで「交通事故は歩行者と車だったら車が悪い、状況がどうであれ法律では車が絶対的に悪い。それと一緒、男と女だったら男が悪い、暴力を振るう方が悪いんよ、だから俺が悪かったんよね」と言った。それを聞いたときにこの人はわたしの思ってることを何も分かってないんだなと思った。Aくんに「これからも俺と会ってくれる?」と聞かれたときに「会うよ」と答えたが、どれだけ彼のことを好きでもこの人と一緒にいるのはもう無理なのかもしれないと思った。

 

次の日、飛行機は夕方のを取っていたので、二人で東京を観光した。原宿でローストビーフ丼を食べたり、インスタ映えするタピオカ屋に行ったりした。まさかAくんとのはじめての“旅行”がこんな形になるとは思っていなかったし、これが最初で最後だろうなと思った。

福岡に着いて家に帰ったあと、Aくんのことをブロックし、そして削除までした。これで一切わたしからAくんに連絡を取ることはできなくなった。連絡先を消したあと、会うのをやめたのはわたしの側なのに涙が止まらなかった。会うのがしんどいと思う気持ちがありつつも、やっぱりわたしはAくんのことが大好きなんだなと思った。次の日から数日間、わたしは気を紛らわせるために祖父母の家に遊びに行った。

 

 

-

 

 

帰省から帰ってきた次の日、メールボックスを開くと見覚えのないアドレスから1件のメールが届いていた。

「自分がどれだけまりのを傷つけたかわかってなかった
おれはまりのの100分の1も傷ついてなかった
なのに自分のことばっかりいってた
どれだけ傷つけてしまったかわからんくらいすごく傷つけてしまってごめんなさい
自分のしたことの重大さに気づいた
ちゃんと謝りたい謝りにいってもいい?」

Aくんからのメールだった。これを読んで涙が止まらなかった。わたしは返事をするか迷った。ここで返信しなかったら、彼と出会う前の自由な生活に戻れる。返信したら、大好きな彼とまた会える。考えて、考えて、「メールありがとう、家で待ってるね」と送ってしまった。

数十分後、彼はわたしの家に来た。玄関に入ってすぐ、その場に立ち竦んで、涙を流しながら「ごめん、ごめん…」とだけ何度も謝った。部屋に招き入れてからも、彼は床にうずくまって土下座をした。そのまま泣きながら「まりのの気持ちを俺はなにも分かってなかった、俺は自分が傷ついたからまりのを傷つけるって言って色々してしまったけど俺が傷ついたのなんてまりのが傷ついたのに比べたら全然だった、ごめんね、ごめんなさい、俺もうどうしたらいいか分からない…」と謝った。

そして「俺、ほんとにまりののことが好きなんだよ、何度も言ってるけど今までで一番好きなんだよ、まりのがいなかったら俺ほんとうに駄目になる、お願い、俺のこと好きじゃなくてもいいから一緒にいて、もう会わないとか言わないで……」と泣いた。

もう二度と会わないと決めたはずだったのに、暫く考えて、わたしは「いいよ、これからも一緒にいよう」と答えた。応えてしまった。やっぱりやっぱりAくんのことが好きだった。どんだけ周りに離れたほうがいいと言われようと離れることができなかった。

彼は「ありがとう」と言い、そのうえでもう二度と束縛も暴力もしないと誓った。「束縛もDVもしたらそのときにはもう二度とまりのと会わない。約束する。まりのがもう俺と本当に会いたくないって言ったら、そのときはストーカーとか絶対しないし絶対諦めるから。」この条件を前提として、またわたしとAくんの交際が再開した。親が、DVをしていたAくんと会わせてくれるはずもないし、また会い始めたと親には言えなかったので、会うのは隠れて、連絡するのも親にバレないように。

二人だけの秘密の生活がはじまった。

 

 

-

 

 

以前と比べて、外に出掛けることなく彼の家で過ごすことが多くなった。Aくんがわたしのスマホを見なくなったのはもちろん、束縛は一切しなくなったし、彼が怒鳴ることも手をあげることもなくなった。その分、わたしの知らないうちに彼の地雷を踏んでるのではないかと不安にもなったが、会うたびに彼は今日も会ってくれてありがとうと言ってくれた。

 

あるとき、Aくんと会わない日に、わたしがAくんの声を聞きたくなって彼に電話をした。彼は電話に出なかったので、何か他の用事があるか勉強しているのだろうと思い、わたしは電話できなくても仕方がないと諦めた。数時間後、わたしは親と出掛けることになったのだが、その最中に彼から「いま電話できるよ」とラインが来た。しかし、親と一緒なので隠れて会っているわたしたちが電話できるはずもなく、その旨を伝えて「また今度しよう、でも声聴きたかった(T_T)」とラインした。彼からは「おれも(T_T)」と返事が来た。

 

あるとき、Aくんに「どこか出掛けたいところない?」と聞かれた。食欲もまだ戻っていなかったのでカフェにも行けないし、特に行きたい場所もなかったのでそう伝えたが「強いていえばほんとはディズニーに行きたかった、でもAくん勉強あるから無理かなと思って」と話した。そしたらAくんは、「え!行こうよ!まりのと旅行いけるの嬉しい!」と言ってくれた。こうしてディズニーに行くことになった。わたしもAくんも日程はいつでもよかったのだが、ホテルを見ていて安い日があったのでわたしが「この日はどう?」と聞き、彼からもOKが出たのでその日程になった。

わたしが希望したので、ディズニー以外にもクリスマス当日も会おうという話になった。

 

ところが数日後、やっぱりディズニーの日程を変えよう、という風にAくんから提案があった。わたしは特に疑問にも思わずいいよ、と答えて彼の望む日程に変更したのだが、その後彼の様子がおかしかったので理由を聞いた。すると「わざと生理かぶる日を選んだんだよね?それが腹立って」と言われた。全く予想だにしていない展開だった。わたしは本当に生理とかを考えずに安いという理由でその日程を選んだのだが、わたしの生理周期を把握していた彼は、わたしがわざと生理の日を選んだのではないかと怒っていたのだった。彼にとっては何よりもセックスをするのが一番だから。もっとも、計算したら生理がドン被りする日程ではなかったのだけど。

 

先日の電話についても、「まりのが24時間いつでも電話が取れるわけじゃないのに、俺がまりのからの電話に出るっていうのは不平等だ。立場が同じじゃない。俺に電話できるのは、俺が電話したらいつでも取れる人だけ。まりのは今それができないんだから俺に電話することはできないよ。俺への電話を声が聞きたいとかそういう精神安定剤代わりに使うな」と言われた。理解はできなかったが「分かった、これからは電話しない」と返した。

 

そして、ディズニーについてもやっぱり行くのやめようと言われた。「ディズニーに行ったら絶対今日のこと(わたしが生理でセックスできない日を選んだこと)を思い出して嫌な気持ちになる。シーに行こうって言ったのも、今まで行ったことないから今後女の子と付き合う上でマイナスのステータスになると思ったから行くって言った。まりのといるとこんな女とは結婚したらだめだって勉強になるわ。」と言われた。

そして「だから、ディズニー行ったら今日を思い出してまりののことを絶対殴ってしまうけど、それでも行きたい?」と聞かれた。殴られるのが分かっていて行きたいはずなどなかったので「行きたくない」と答えた。すると「そしたら俺のこの傷ついた気持ちはどうなるわけ?で、もう一回聞くけどディズニー行きたい?」と聞かれた。わたしは「行きたい」としか答えることができなかった。

 

数日後、また彼からラインが来た。

「今週あったことについて色々考えたんだけど、検討の結果、24日は会うことができない」

と言われた。わたしが「分かった(T_T)」と返すと、「こういうときに絵文字使われると本気かどうかわからないからやめて。もう一度聞くけど、その決定を変えないと約束できるよね?」と言われた。「絶対に変えないよ、約束する」と返した。

 

ところが次の日、「今日ならクリスマスのことについて考え直す。家で待ってる」とラインが来た。

見ての通り、この数日で立場が東京に行く前と同じになっていた。暴力は振るわれなくとも、わたしは彼に対して自由に言いたいことが言えなくなっていた。この日についても、わたしが彼の家に行かなければ彼への気持ちを証明することができないのだと理解した。

この日は日曜だったため家には親がいた。Aくんの家に行くことを、親にはバレないようにしなければならない。「博多駅に出かけてくる」と言って、こっそりAくんの家に向かった。Aくんのマンションに着いて、オートロックに向かおうとした瞬間、後ろから「まりの」と呼ばれた。わたしの親だった。 夕方から出掛けるわたしを不審に思った親は、こっそりわたしの後ろをつけてAくんの家に行かないか確認していたのだった。もちろん、Aくんに会うことなくわたしは家に連れ戻された。

東京の事件以降も会っていたことを説明せざるをえなかった。親は「もしこれ以上会い続けるなら今すぐ警察に通報するよ。あなたが今までされてきたことで十分逮捕してもらえるんだから。今すぐ目の前でAくんにもう会わないって連絡して。しないなら警察に言う」と言われた。わたしは、もしこの先暴力を振るわれたら警察に言おうと思ってその準備はしていたが、あの日約束してから暴力を振るわれることはなかったため、そのままAくんを犯罪者にするのは嫌だった。

わたしはAくんに「もう会えません、ごめんなさい」と連絡した。

 

もちろんAくんが納得するわけがなかった。「明日の朝、電話したい」と連絡が返ってきていた。翌日、親が仕事に出掛けてからわたしは「電話できるよ」と返した。数分後、彼から電話が掛かってきたが、「今まりのの家の下にいるからオートロック開けて」と言われた。彼はわたしの家まで来ていた。

鍵を開けて、彼との話し合いが始まった。まず、昨日なにが起こったかを全て説明した。状況的にそうメッセージを送らざるを得なかったけど、わたしはまだ会いたいと思う気持ちがあるということを伝えた。彼も、まだわたしと会っていたいと言った。

しかし、話をしているうちに、また少しずつ彼との考え方の違いで揉めはじめた。幾ら説明してもわたしの気持ちをAくんが理解してくれないことが悲しくて、「家族にも友達にも、誰にAくんの話をしてもみんなもう離れたほうがいいって言うんだよ、あんだけ酷いことされ続けてきたのにそれでも会い続けるまりのもおかしいってみんなに言われるんだよ、なのにAくんはわたしの気持ちなーーーんにも理解してくれないじゃん!!」泣きながらそう言った。初めてわたしはAくんに対して大声をあげた。

Aくんはわたしを抱き締めたあと、そのままわたしの腕を引いてベッドに連れて行き、そして「嫌?」と聞いた。「いやじゃないよ」と答えると、そのまま体を重ねた。わたしを抱きながら、Aくんは「今までありがとう、今まででいちばん大好きだった、幸せだったよ」と言った。あれだけわたしと会いたいと言い続けていた彼は、もうわたしと会わないつもりなのかもしれないと思った。

 

その日わたしは10時-15時で予定があったので、16時に彼の家に行く約束を以前からしていたが、今日は会うのはやめとこうという話で落ち着いた。

予定を済ませて16時頃家に帰ってくると、彼から電話したいと言われ、電話を繋いだ。くだらない話をしばらくしたあと、わたしは「もう会うの、やめよっか」と言った。Aくんは「うん」と答えた。「まりのがほかの男と歩いてるとこ見るの、嫌だなあ」と彼は笑いながら言ったけれど、声は震えていた。わたしは涙が止まらなかった。彼も泣いていた。

最後はお互い「今までありがとう、大好きだよ」だった。さようならはなかった。

 

 

-

 

 

出会いから今までを振り返ったときに、とことん酷いことをされてきたなと思った。こんな人初めて出会ったなと思ったし、誰に話しても「まりのにはもっといい男の人がたくさんいるよ」と言われた。でも、ここまで理不尽なことをされてもわたしは彼のことが大好きだった。

 

笑ったときにくしゃっとなる顔が好きだった。柔らかくてよく伸びるほっぺたが好きだった。優しく頭を撫でてくれる綺麗で長い指が好きだった。セックスをしたあとに寒いよね、って布団を掛けてくれるのが好きだった。いつも腕まくらをしてくれるのが好きだった。わたしが家に行くと、毎回お菓子とわたしの大好きなミルクティーを用意してくれるのが好きだった。ダイヤモンドスマイルの「瞬きが終わる頃 僕だけのキミでいてね」を歌ってくれるのが好きだった。chauの「僕じゃない恋にはもう出会わないで」を歌ってくれるのも好きだった。恥ずかしいと言いながらも外で手を繋いでくれるのが好きだった。「誰もいない二人だけの世界に行けたらいいのにね」って言ってくれるのが好きだった。世界で誰よりもまりのが一番かわいいよ、って言ってくれる優しい声が好きだった。

 

この文を書いてる今も、彼のことが大好きだ。今まで出会った誰よりも大好きだった。思い返したときに一種の洗脳だったのかもしれないと思うけど、それでもこの先わたしが彼のことを嫌いになることはないと思う。

 

彼は最後の電話で、「ずっと秘密にしてたこと言うけど、前の彼女に手をあげたこと、実は1回しかないんだよね」と言っていた。彼は前の彼女と2年間付き合っていた。わたしが彼と一緒にいたのは5ヶ月弱だった。本当は彼はDVするような人じゃなかったのかもしれない。わたしがそんな人に変えてしまったのかもしれない。そう思うと少し悲しくなったけど、それくらいわたしは彼に愛されていたのかなと思ったら少し嬉しかった。

 

でも、やっぱりDVは何があってもだめなものだと思う。何があっても女の子に手をあげたらだめ。それは絶対。わたしが言える立場じゃないけれど、女の子は暴力を振るわれたら絶対にその男の人とは離れてね。

 

これまで話を聞いてくれて相談に乗ってくれたフォロワーのみんなありがとう。そして、心配と迷惑をかけてごめんね。

 

 

ハッピーエンド

ハッピーエンド

  • back number
  • J-Pop
  • ¥255

きっとこれが、わたしとAくんにとっての“ハッピーエンド”だったんだよね。

今まで出会った誰よりも大好きだったよ。だから、わたしのこと、ずっとずっと忘れないでいてね。

 

 

 

2019/11/27  まりのちゃん